けあぷらの森

ファイル5 心の糸を紡ぐハーモニカの音色 横浜市今宿地域ケアプラザ
デイサービス・レクリエーションボランティア 山本博済さん

平成14年より、デイサービスのレクリエーションで月1回1時間ほどハーモニカを演奏する山本博済(ひろなり)さん。
ハーモニカの音色とトークの面白さで利用者の心をひきつけて離しません。
「ダンディー」という形容詞がぴったりで、おしゃれな山本さんをインタビューしました。

デイサービスのレクリエーションタイム

ハーモニカを演奏する山本さん

ハーモニカを演奏する山本さん

6月のある日の午後、デイルームからハーモニカの音色が響いてきます。
曲目は、「雨降りお月さん」「ある雨の午後」と雨にまつわる4曲、近づく夏を意識して「夏は来ぬ」「知床旅情」と続き、美空ひばりの思い出の歌6曲。
聞けば6月は美空ひばりの命日だとか。

山本さん自ら、季節やストーリーを考え選曲し、順番を決めて2ページの歌詞カードを作成します。
トップの文字は「ハーモニカで歌いましょう」

歌を口ずさみ、みんなで楽しむ

レクレーションの様子

歌詞カードを見ながら歌うデイサービス利用者さん

利用者は歌詞カードを見ながら、ハーモニカの演奏に合わせて歌います。
「演奏を聴くのではなく一緒に楽しんでほしい」。そんな思いが込められています。
大きな声で歌う方、リズムをとるように体を動かす方、演奏に耳を傾ける方、「すばらしい。アンコール!」と声を掛ける方と反響はさまざま。
曲の合間に、歌手や曲のエピソード、懐かしい風景を静かに語るのが山本流。
その澄んだ声と優しい語りが、思い出の糸をたぐり寄せます。

反省を生かし選曲

山本さんが一番気を遣っているのは選曲。
忘れられない2つの出来事が原点です。
ひとつは演奏後に「ひとりひとりの心の糸を紡いで、とても素敵だった」と感動の言葉をもらったこと。
もうひとつは、病院訪問の際、「月の砂漠」の演奏に認知症の女性が涙したこと。同席した医師に「今日は良かった。感動して涙を流すことは彼女にとってとても良いことです」と言われ感銘を受けました。

どうしたらそのときどき、違う人に喜んでもらえるか。
溶け込みにくい男性をいかにひきつけるか。
マンネリにならずに「今日は楽しかった」と思ってもらえるか。
いつも考え、演奏ごとに反響が良かった曲、良くなかった曲とパソコンに記録を残し反省します。
利用者ばかりでなくスタッフの反応のチェックも怠りません。

思い出をたぐりよせるトーク

お話をする山本さん

演奏の合間のトーク

曲の合間のトークにもこだわりが。
ハーモニカのメロディーの中に、友達と遊んだ山や川、村祭りやサーカスなど懐かしい思い出がよみがえります。
その思い出をたぐり寄せるのが曲や歌手にまつわるエピソード。
「あのとき誰と映画を見た」「あのときはああだった」と思い出は尽きることがありません。

いつも真剣勝負

そのときそのときが真剣勝負だからこそ、反響がよかったときの喜びや充実感は大きく、良くなかったときは落胆します。
だからと言って落ち込んではいられません。
他では反応がよかったのにここでは何故悪かったのか反省し、次回はこうしてみようと改めます。
「みなさんの共感を得られなくなったら、そのときは活動を辞退する」ときっぱり。

先生について学ぶ

ハーモニカを本格的に始めたのは定年退職後。
少年時代から音楽、特に歌うことが大好きで、ハーモニカも自己流で吹いていましたが、一念発起して先生につき学びました。
施設でフルートを演奏する友人に誘われ、ボランティア活動を開始。
旭ホームなど特別養護老人ホーム、グループホーム、病院を訪れ、今も地域の老人クラブや町内会で演奏しています。

ハーモニカの種類

復音タイプのハーモニカ

復音タイプのハーモニカ

山本さんが使用するハーモニカは上下に2段穴がある日本製の復音タイプです。
基本的なハーモニカの種類は、メジャー(長調)が12本、マイナー(短調)が12本、合計24本。
一般的にメジャーは明るい曲に使い、マイナーは抒情的な寂しい日本の曲に合います。
その他に、合奏用や特殊なハーモニカがあり、インタビュー当日は、20本以上ある中から11本のハーモニカをお持ちくださいました。

しっとりと枯葉を演奏

「枯葉」を演奏する山本さん

「枯葉」を演奏する山本さん

ハーモニカの魅力は、その音色とひとりでも演奏できる気軽さ。
「最初は3本もそろえれば十分」と山本さん。
うまくなるには、自己流ではなく他人に基礎から教わり、続けることです。
好きな曲を尋ねると、あまり多くは語らずに「枯葉」を演奏してくださいました。

今めざしていること

インタビュー中の山本さん

インタビュー中の山本さん

大切にしているのは、「美しい」ということ。
今も稽古を続けている弓道の目標に、「真」「善」「美」の修得と説かれています。
「真」とは「論理」で理論通りの動作を行うこと。
「善」とは「倫理」で、敬う、慎む、思いやりの心、謙虚さ。
「真」「善」が修得されて初めて美しい弓になると言われています。
生きていく上で、常に「美の追求」をし、日頃から努力を重ねていきたいと思っているそうです。
「腰が曲がる、しわが増えるのは当然で、大切なのは心の美しさ、つまり感謝、礼儀、謙虚さ…」と熱く語りますが…
「ハーモニカを吹くときは舌を使います。女性が長生きするのは、おしゃべりが上手だから。私は長生きをするためにハーモニカを吹いています」と、ときどきジョークをまじえ人を笑わせるのを忘れないのが山本さんの優しさでしょう。

インタビュー後は、ハーモニカを吹きながら、あれこれハーモニカ談義が続きました。
それはまさしく山本さんがよくおっしゃる「パーフォーマンス」そのもので、そこには聴く人の耳に、見る人の目に美しい姿があります。
どうぞ、末永く「けあぷらの森」でハーモニカの音色を響かせてください。

(平成25年9月記)